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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)13075号 判決 1998年9月17日

第一事件・第二事件原告

伊藤アルミニウム工業株式会社

右代表者代表取締役

伊藤圭一

右訴訟代理人弁護士

牛田利治

白波瀬文夫

岩谷敏昭

第一事件被告

パール金属株式会社

右代表者代表取締役

高波久雄

第二事件被告

パール工業株式会社

右代表者代表取締役

髙波文雄

右両名訴訟代理人弁護士

渡辺隆夫

主文

一  被告らは、原告に対して、連帯して金一二〇〇万円及び内金四一六万一六七九円に対しては平成七年二月一日から、内金七八三万八三二一円に対しては平成八年九月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対して、連帯して金一二〇〇万円及びこれに対する平成七年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  基礎となる事実

1  当事者

原告は、アルミニウム製厨房用品の製造販売等を目的とする株式会社、第一事件被告パール金属株式会社(以下「被告パール金属」という)は、ステンレス製家庭用品の仕入及び販売等を目的とする株式会社、第二事件被告パール工業株式会社(以下「被告パール工業」という)は、家庭用及び業務用の厨房用品の製造等を目的とする株式会社で、原告と被告らは競業関係にある。

2  原告製品

原告は、平成五年九月以降、別紙目録(一)記載のオーブントースター用網焼プレート(以下「原告製品」という)を製造し、販売している。

3  被告パール工業は、別紙目録(二)記載のオーブントースター用網焼プレート(イ号物件及びロ号物件。以下、総称して「被告製品」という)を製造し、これを被告パール金属に納入し、被告パール金属は、平成六年八月からダイエー向け商品にH―五九二、ダイエー以外向けの商品にH―八四〇〇の品番を付して販売している。

二  原告の請求

原告は、被告製品の形態は原告製品の形態を模倣したものであるから、被告パール工業が被告製品を製造して被告パール金属に納入し、被告パール金属がこれを販売することは、不正競争防止法二条一項三号にいう「不正競争」に当たると主張して、不正競争防止法四条ないし民法七〇九条に基づき損害賠償金及びこれに対する民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。

三  争点

1  被告製品の形態は、原告製品の形態を模倣したものか。

2  被告らが、原告に対して、損害賠償責任を負う場合に支払うべき金銭の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告製品の形態は、原告製品の形態を模倣したものか)について

【原告の主張】

1(一) 原告製品の形態は、次のとおりである。

① 角部にアールをつけた矩形状のトレイ内に、網を載置してあり、

② 網は、トレイの内側壁に沿う形状の外枠と、長手方向に付設された九本の縦柵と、横方向に付設された二本の横柵と、縦柵を曲折して設けられた四つの脚部とからなり、

③ トレイは灰色、網は黒色とされ、いずれもフッ素樹脂加工されシルバー調色彩の

④ オーブントースター用網焼プレート。

(二) 被告製品の形態は、次のとおりであって、原告製品の形態と実質的に同一である。

① 角部にアールをつけた矩形状のトレイ内に、網を載置してあり、

② 網は、トレイの内側壁に沿う形状の外枠と、長手方向に付設された九本の縦柵と、横方向に付設された二本の横柵と、縦柵を曲折して設けられた四つの脚部とからなり、

③ トレイは灰色、網は黒色とされ、いずれもフッ素樹脂加工されシルバー調色彩の

④ オーブントースター用網焼プレート。

2 被告らは、被告製品は原告製品と相違点があることを指摘して、被告製品は原告製品と実質的に同一とはいえない旨主張するが、次のとおり、被告らが主張する、被告製品と原告製品との相違点はわずかなものであって、実質的に同一という評価を妨げるものではない。

(一) そもそも不正競争防止法二条一項三号にいう「模倣」の客観的要件としての形態の実質的同一性とは、「寸法が若干短いとか、細部がやや異なるとか、色調がわずかに異なるとかいう多少の相違はあっても、全体を観察してその両者の特徴が全く同一であることをいう」のであり、「この要件は脱法的な模倣を許さない程度に同一性の範囲を広げたもの」とされている(山本庸幸「要説新不正競争防止法」一一七頁)。被告製品は、フッ素樹脂加工をしたトレイと網とが一体となった商品であるから、この点で、全体を観察すると原告製品と特徴が全く同一であることは明らかである。被告が主張する、被告製品と原告製品との差異は極めて容易に設定できるものであるし、かかる相違点により、かえって、被告製品の性能は原告製品より劣ってしまっている。すなわち、まず、オーブントースターの熱によりトレイが膨張した際、歪みが生じ得るので、原告製品ではトレイの縁に段差を設けて強度を補強しているのに対して、被告製品は、段差がなく歪みやすく、よって、耐性が劣っている。また、被告製品では二本の横柵の間隔が原告製品に比較して大きくなっているので、食品がトレイから落ちてしまいやすい構造となってしまっている。

(二) 原告製品は、ほとんどの家庭に普及している横型のオーブントースター全種類に使用できるサイズで、フッ素樹脂加工を施した製品を作るという観点から相応の費用と労力を費やして開発されたもので、平成五年九月ころ、市場に投入され、すぐに生産が受注に追いつかなくなるほどの大ヒット商品となった。右成功をみて、同業他社が相次いで後追い商品を販売するようになったのであるが、例えば、高木金属工業株式会社は、網を用いず、トレイの底面に横方向の溝を設け、食品から出た油がその溝にたまるようにしているし、また、竹原製缶株式会社は、トレイの底面の溝を縦方向に設けているし、さらに、株式会社山七製作所は、溝の代わりにトレイの底面に円形の突起を設けている。これらのことと比較すると、被告らが主張する、被告製品と原告製品との差異は極めて容易に設定できる細部の差異にすぎず、被告らが独自の工夫をこらし、費用と労力を重ねて改良を加えた結果とは言い難い。

そして、右に述べたような各杜の後追い商品の形状のほか、網のみを商品とし、しかも、網の形状が原告製品のように長方形ではなく、正方形の格子状の商品もある。このようにフッ素樹脂加工されたオーブントースター用のトレイとして、網の有無・形状、トレイの底面に施す溝や突起の形状には多数のバリエーションが考えられるのであって、原告製品の形態が同種商品が通常有する形態とは到底いえないのである。

3 被告らは、シルバーストーン加工の浅型天プラバット(小)フタ兼用タイプ」(H―八二〇〇)(以下「被告H―八二〇〇製品」という)が原告製品の先行商品であって、被告製品はこの被告H―八二〇〇製品を参考にしたもので、原告製品を模倣したものではないかのように主張するが、次の点から、被告H―八二〇〇製品をもって原告製品の先行商品ということはできない。

(一) 被告H―八二〇〇製品には「オーブン用の焼き皿にも適している」とのラベルが貼付されていたと主張するが、原告製品は、オーブンとは大きさ、用途、一般家庭への普及割合が格段に違うオーブントースター用の商品である。被告H―八二〇〇製品は、サイズが大きいため、ほとんどのオーブントースターで使うことはできない。

(二) 被告H―八二〇〇製品は、バットのみであって、網を含まない。網は、「H―八三四三 天ぷらバット用アミ スタンダード小」(乙一の一)という別製品である。

(三) 被告H―八二〇〇製品は、本来天ぷら用バットに用いられる製品であって、原告製品のように初めからオーブントースターに用いることを意図した製品ではない。被告H―八二〇〇製品は、たまたまオーブン用の焼き皿にも用いることができるというにすぎない。

4 被告らは、原告製品には、意匠権が成立する余地はなく、実用新案権が付与されることも考え難いし、不正競争防止法二条一項一号の商品表示性、周知性も存在せず、もとより著名な商品表示形態でもない、原告は、従前、オーブントースターの付属品であったものを独立した商品として売り出したという先行アイデアをもって、他の同種商品の販売の禁止を求めていると反論するが、そもそも不正競争防止法二条一項三号において、形態の模倣が不正競争行為とされているのは、先行者が資金、労力を投下して商品化し、市場に提供した成果を、模倣者が自ら資金、労力を投下することなく模倣して、競争上不公正な有利性を得る点にあるので、本号の客体となる商品の形態には、特許法にいうような高度性や、進歩性、新規性も関係なく、意匠法でいう創作性も不要であるから、被告らの反論は失当である。

【被告らの主張】

1 被告製品のうち、イ号物件はシルバーストーン(デュポン社のフッ素樹脂加工)一回加工のため、やや薄く、ロ号物件は二回加工のため、濃いシルバー調の色彩となっているところ、そもそもシルバー調の色調はフッ素樹脂加工特有の色調にすぎないのであるし、また、被告製品は、原告製品と次のような点において相違しているので、被告製品は原告製品の模倣でない。不正競争防止法二条一項三号の「模倣」はいわゆる「デッドコピー」に限定されるべきであり、右のような相違点のある被告製品が原告製品のデッドコピーでないことは明らかである。

(一) 原告製品のトレイの縁は、内側が外周より一段低く段差が設けられているのに対して、被告製品は縁が平坦になっている。

(二) 原告製品は、網の横柵の位置が網の縦長のほぼ三等分する位置にあるのに対して、被告製品では縦長の両端に寄っている。なお、そもそも、網の横柵の間隔は、焼き網に適する間隔として自ずと定まるものであり、また、横柵の位置の間隔はある程度設計者の好みによるので、間隔が近似しているからといって模倣であるということは全く当たらない。

2 被告らは、従前より焼き物や揚げ物用の調理用品を多種多様に製造販売してきており、被告商品は、次のように従前から製造販売してきた商品を参考に被告らが独自に製造販売したものである。

(一) 被告パール金属は、昭和六三年八月以前から、「シルバーストーン加工浅型天プラバット(小)フタ兼用タイプ」(H―八二〇〇)(「被告H―八二〇〇製品」)を製造販売している。右商品について、ラベルには「天プラバット」と表示しているが、同じラベル上に「オーブン用の焼き皿にも適していますので、幅広くお使いいただけます」と表示し、トレイと網とをオーブントースターの付属品と別個の商品として扱ってきた。

(二) 被告H―八二〇〇製品のバット用の網にはフッ素樹脂加工は施されていなかったが、網にフッ素樹脂加工をすることは、焼き網に広く採用されていたもので、被告製品は、従前から製造販売していた天プラバット用の網にフッ素樹脂加工することを採用したにすぎない。

3 原告は、原告製品の形態の特色として①トレイの角部にアールをつけた矩形の形状、②網を右トレイ内に載置し、網とトレイがフッ素樹脂加工によるシルバー調の色彩であること、③網の縦柵、横柵、縦柵のうちの二本を曲折して脚部を形成している形状、の三点を挙げている。

しかしながら、右のうち、①のトレイの角部にアールをつけた矩形の形状というのは、オーブントースターの付属品として原告製品の発売以前から広く販売されていた物と形態が同一であり、むしろ、原告製品は、従前から存在したオーブントースターの付属品の形態を模倣したものというべきである。すなわち、オーブントースターは形態、寸法とも各メーカーによる差異がほとんどなく、内部に入れるトレイは角部にアールをつけた矩形状とならざるを得ないのである。

また、②のフッ素樹脂加工は、グリル機能を目的とした商品に広く用いられている技術であって、オーブントースターの付属品として販売されていたトレイに既に施されていたし、焼く物がトレイに付着しないようにトレイに網を載置することは一般的であり、現に、このような組み合わせは天ぷら用、オーブン用として既にあった。

右の①、②の特徴は、同種の商品が通常有する形態であって、不正競争防止法二条一項三号かっこ書によって保護の対象となる形態から除外されるものである。

4 原告製品には、意匠権が成立する余地はなく、実用新案権が付与されることも考え難いし、また、不正競争防止法二条一項一号の形態の商品表示性、周知性も存在せず、もとより著名な商品表示形態でもない。

原告は、従前、オーブントースターの付属品であったものを独立した商品として売り出したという先行アイデアをもって、他の同種商品の販売を禁止することを求めているのである。しかし、原告製品の形態そのものは、既存の形態である以上、それまで独立した商品として売り出した物がなかったという理由でこれを保護すべき理由はない。むしろ、このような転用商品、付属品から独立商品を生み出すアイデアは、商品の品質、価格によって競わせることが公正な競争を促すので規制すべきでない。

二  争点2(被告らが、原告に対して、損害賠償責任を負う場合に支払うべき金銭の額)について

【原告の主張】

そもそも被告パール金属と被告パール工業とは、住所、主要役員、設備、人員などを共通にしており、かつ、資本関係もある。また被告パール工業で製造された製品はすべて被告パール金属に納品されており、被告両者は同族会社グループを構成している。被告両者は、このような客観的関連共同性のもと、被告製品の販売によって得た利益を分け合っていることは疑問の余地がない。したがって、被告らの行為は民法七一九条一項の共同不法行為を構成し、被告らは、被告製品の販売により次のとおり原告が被った損害を、連帯して賠償する責任を負う。

1 まず、不正競争防止法五条一項にいう「利益」とは、売上高から売上原価を控除した粗利益と解すべきである。

2(一) 仮に、不正競争防止法五条一項の「利益」について粗利益と解さないとしても、その算定に当たっては、不正競争行為者の売上額からその原材料などの変動費用のみを控除し、侵害品の開発費用はもとより、人件費などの一般管理費、営業外費用、金型償却費などは控除の対象とすべきではない。

(二) そこで、本件において、変動費用として被告製品の売上高から控除すべき費目が問題となるところ、被告パール金属については運送費、リベート協力費、返品、単価訂正の各費目であり、被告パール工業については製造原価である。

ところで、被告製品に関する、被告らの原価計算表(乙二四、三一)上の右各費目の具体的金額については、次のような疑問があるので、被告製品の売上高から控除されるべき変動費用の具体的金額は原告製品の製造販売に要した当該費目の金額によるべきである。

(1) リベート協力費

① ダイエー向けH―五九二の場合

被告パール金属は、ダイエー向けH―五九二に関して、販売価格の七%相当額のリベート協力費を要するとしている(乙二四の③、三五)が、ダイエーは、平成八年春に納入業者一律に割戻(リベート協力費)の率を上げており、原告は同時期に率を上げられている。被告パール金属も同様であると思われるところ、同被告は、率が上げられた平成八年三月以降分の約定書(乙三五)のみを提出し、それ以前の低い率の示された約定書をことさら提出していない。

② ダイエー以外向けH―八四〇〇の場合

被告パール金属は、ダイエー以外向けH―八四〇〇のリベート協力費の根拠として、訴外中山福株式会社との間の販売感謝金に関する覚書(乙三六)を提出しているが、同社は、業界でも高い販売感謝金を求めることで知られており、年間の平均が1.5ないし2%程度である。

③ ところで、そもそも売上割戻は、財務諸表規則上、「(財務諸表)規則七二条第一項に規定する「売上値引」に準じて取り扱うもの」とされており、具体的には、原則として「売上値引」に含まれて処理されるのであり、例外的場合も販売奨励費等として「販売費」に計上される。つまり、「売上割戻」は、「売上高」中の「値引」の項目ないし「販売費」のいずれかの項で必ず処理されるにもかかわらず、被告パール金属は、被告製品の純利益の計算に際して控除する費目として「値引」「販売費」の双方とも挙げている。すなわち、リベート協力金は、「単価訂正(値引)」あるいは「営業運営費」のいずれかとの重複計上の疑いがある。

(2) 返品

① ダイエー向けH―五九二の場合

ダイエーでは、ダイエー向けH―五九二を定番商品として売場に常時棚を割り当てており、商品がなくなれば被告パール金属が補充する形で現在まで継続して販売してきたので、この商品はダイエーから被告パール金属に返品されることはあり得ない。被告パール金属は、取り扱い商品全体の一般論として返品があることを奇貨として、返品があり得ない当該商品についても返品があるかのように仮装しているのである。

② ダイエー以外向けH―八四〇〇の場合

ダイエー以外向けH―八四〇〇についても、多くのスーパーマーケット等で定番商品として棚割が行われているので、返品が発生する率は極めて小さい。原告製品の場合、発売当初から生産が追いつかない状態で、返品率がゼロである時期がかなり続いた。類似品が販売されている最近でも、原告製品の返品率はゼロに近く、したがって、被告製品の返品率が一%にも満たないことは明らかである。被告パール金属の損益計算書(乙二八)における返品率2.9%というのは、被告パール金属は、季節性の極めて強いアウトドア商品を多く扱っており、これらの商品の返品率が高いためであって、季節性が小さく、また、長期間返品がない被告製品にそのまま引用することができる数値ではない。

(3) ダイエー向け商品H―五九二の単価訂正

ダイエー向け商品H―五九九については、右(1)のとおり、リベート協力費が計上されており、したがって、そもそも単価訂正はあり得ないにもかかわらず、被告パール金属は右商品について単価訂正を計上している。

(4) 網の原価

被告パール工業は、網をシンドーから一個当たり四三円で仕入れ、ヤマト工業での加工につき一個当たり八四円を要しており、合計一二七円が原価であるとしている(乙三一、三二の3・4)が、被告パール工業の網と同水準である原告製品の網の原価は七二円で、被告パール工業が原価とする一二七円とは大きな開きがある。

(5) 組立包装費

被告パール工業は、組立包装費を概算で一個当たり一〇円とする(乙三一)。組立包装費とは、ラベル、ヘッダーをつけた製品をビニール袋に入れてホッチキスで止める作業をするパートの賃金のことであるところ、この作業は単純で工程も少ないことから、一人で一時間に約三〇〇個程度組立包装できると推測され、パートの時給を仮に八〇〇円とすると、製品一個当たりの単価は三円(八〇〇円÷三〇〇個)にも満たないにもかかわらず、被告パール工業は、原価を高く設定している。

3 さらに、不正競争防止法五条一項にいう「利益」とは、売上高から経費を控除した純利益であると解すべきだとしても、右2に記載したほか、被告らの原価計算表には後記(一)ないし(六)のような疑問点がある。

ところで、本件訴訟前に、原告と被告パール金属との間でOEM生産について協議した際、被告パール金属が提出した見積書(甲四四)には原価一九〇円となっており、この額は当時の原告製品原価とほぼ同額であったこと、原告と被告らは同業者で、原告と被告らの利益率は同一か若しくは被告らの方が高い利益率であると考えられることからすると、原告製品の場合、売上額から経費を控除した一個当たりの純利益は一〇六円四三銭であることからすれば、被告製品の一個当たりの純利益も同額の一〇六円四三銭とみるのが相当である。

被告パール金属は、平成六年八月一日から平成八年八月三一日までの間に被告製品を一〇万二三九四個販売した。したがって、被告らが得た利益の額は一〇八九万七七九三円であり、これが原告の被った損害の額と推定されるべきである。

(一) カタログ作成費

① まず、乙第二七号証の各枝番号のカタログには、被告製品の宣伝文句が掲載されており、これらが広告宣伝のために用いられるものであることは明らかであるから、その作成費は、広告宣伝費として「販売費及び一般管理費」に含まれる。他方、被告らは、控除すべき費用として、カタログ作成費とは別に営業運営費という費目を挙げているところ、営業運営費の中身は乙第二五号証(決算報告書抜粋)の経費で、右経費には販売促進費も含まれているのであるから、販売促進費に右のカタログ作成のための費用の含まれている疑いが強く、重複計上の疑いがある。

② 被告パール金属は、被告製品一個当たりのカタログ作成費を計算するに当たり、カタログ全体の作成費一八〇万円に六分の一を乗じているが、カタログに占める被告製品の宣伝スペースは八分の一以下であるから、六分の一を乗じるのは誤りである。

(二) 倉庫料

被告パール金属が控除費用として挙げている倉庫料は、正確な名称は地代家賃であるが、そもそも被告らは、同一住所地にあるグループ会社であり、一方が他方の敷地あるいは建物を使用することで、地代家賃という形で支払をし、グループ内で利益を分散ないし希薄化させていると思われ、したがって、倉庫料を費用として控除すべきでない。

(三) 金型費

被告パール金属は、被告製品一個当たりの金型費を計算するに当たり、金型製作費一四〇万円を税法上の償却期間である二年間に生産された被告製品の個数約一〇万個で除している。しかしながら、本件は、損害賠償請求事件であり、およそ税法上の償却期間が考慮される余地はなく、また、被告製品の金型は二年ほどで廃棄されているわけではない。今後も、この金型により被告製品が継続して製造されることが予想される以上、この金型により製造することが見込まれる製品の数量を明らかにし、その数量で金型費一四〇万円を除すべきである。

(四) 平均売価

被告パール金属は、被告製品の平均売価を大体平均で見て出しているとするが、類似品が出て値崩れした時期以降の低めの数値の可能性が大である。

(五) 仕入単価

ビニール袋、ラベル、ヘッダー、内装小箱、カートン他の単価についても、ことさら高い時期の数値が選択されている可能性を否定できない。

(六) プレートの材料費

① 被告パール金属は、プレート材料費をキログラム当たり四五〇円とする(乙三一)が、被告製品にはフッ素樹脂のコーティングが一回のイ号物件と二回のロ号物件があるところ、右材料費はコーティングが二回のロ号物件の材料費である。フッ素コーティングが一回のイ号物件のプレート材料費が二回のコーティングのそれよりも低いことは自明であり、このキログラム単価の安いプレート材料を、意図的に計算対象から排除している。

② プレート材料は、マイヤー社から被告パール金属、秋原商会そして被告パール工業という流れで取引されているところ、被告パール金属から秋原商会への転売過程で、被告パール金属は転売利益を得ていると思われるが、被告らはこれを隠匿している。

4 不正競争防止法五条二項は、商品形態の使用に対し原告が通常受けるべき相当額を、原告の損害の最低限の額として請求し得ることを定めている。

本件の場合、原告製品の顧客吸引力が著しく、短時間・低コストで実施でき、かつ、多大な利益を得ることができる性質のものであるから、使用料は少なくとも売上高の一〇%が相当である。原告は、消極損害についての予備的主張として使用料相当額の賠償を求める。

5 また、本件訴訟は、知的財産権部に係属する専門性の強い訴訟であり、原告としては権利救済のために弁護士を委任せざるをえなかったので、原告が費やした弁護士費用も被告らの不正競争行為と相当因果関係を有している。本件訴訟の経過等も考慮すると、被告らは、弁護士費用として一二〇万円を賠償すべきである。

【被告らの主張】

1 そもそも不正競争防止法五条一項は損害を推定する規定にすぎないのであり、その損害は民法の不法行為で論ぜられる構成と異なるものではないから、そこでいう「利益」とは純利益と解するべきである。

2 被告パール金属は、被告パール工業から被告製品のうちH―八四〇〇を二八四円で仕入れ、これに被告パール金属が加工をしたH―五九二の原価は三〇四円である。そして、H―八四〇〇の平均単価は三九〇円、H―五九二の平均単価は四〇〇円、粗利率は27.1%、二四%である。

ところで、被告パール金属が被告製品を販売するに要する経費は、運送費、不良率、リベート協力費、カタログ作成費、営業運営費、倉庫料、返品率、金型費、製版代、単価訂正、工賃であり、これらの経費率は二五ないし二七%で、これら経費を控除した被告製品の純利益は二ないし三%である。

原告は、被告の主張する原価が高額すぎる根拠として、かつて原告から被告パール金属に対してOEM生産を打診した際に被告パール金属が提示した製造原価が一九〇円であったことを挙げるが、右金額はあくまでもOEM生産につき協議するに当たり提示した金額であって、双方の経営状況、当該商品の市場環境その他取引をめぐる諸条件及び交渉によって最終的に決定される金額の参考となるものにすぎない。そして、原告は、被告の原価計算表のうち、リベート協力費、カタログ作成費、倉庫料、返品、金型費、単価訂正、平均売値、仕入単価、プレート材料費、網の原価、組立包装の各費目の具体的金額について批判をしているが、それらはいずれも推測を述べ、あるいは独自の前提を想定して構成されたものであって失当である。

第四  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(被告製品は、原告製品を模倣したものであるか)について

1(一)  甲第一ないし第二三、第二八、第三五、第三六号証、乙第二七号証の12、検甲第一、第三、第四号証によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告製品及び被告製品は、いずれも食品を焼くために食品を載せオーブントースター内に入れて使用するもので、食品がトレイに焦付くのを防止するため、食品をトレイに直に置かないようトレイ内に網を置きその上に食品を置くようにするとともに、トレイと網それぞれにフッ素樹脂加工を施したものである。

(2) 原告製品の形態は、

① 角部にアールをつけ、内側が外周より一段低い二段となった幅七mmの縁を有する矩形状のトレイ(二四五mm×一四五mm)内に、網を載置してあり、トレイの底面には縁に沿って溝が形成してあり、

② 網は、トレイの内側壁に沿う形状の外枠と、長手方向に付設された九本の縦柵と、横方向に縦柵のほぼ三等分の位置に付設された二本の横柵と、左右の最外側の縦柵を各端部と横柵との中間部で口の開いたU字状に曲折して設けられた四つの脚部とからなり、

③ トレイは灰色、網は黒色とされ、いずれも鉄にフッ素樹脂加工されシルバー調色彩の

④ オーブントースター用網焼プレート。

である。

(3) 被告製品の形態は、

① 角部にアールをつけ、幅七mmの平坦な縁を有する矩形状のトレイ(二四五mm×一四三mm)内に、網を載置してあり、

② 網は、トレイの内側壁に沿う形状の外枠と、長手方向に付設された九本の縦柵と、横方向に縦柵の端からそれぞれほぼ六分の一の位置に付設された二本の横柵と、左右の最外側の縦柵を横柵よりやや中央寄りの位置で口の開いたU字状に曲折して設けられた四つの脚部とからなり、

③ トレイは灰色、網はトレイより濃い灰色とされ、いずれもフッ素樹脂加工されシルバー調色彩の

④ オーブントースター用網焼プレート。

である。なお、イ号物件とロ号物件とでは、トレイの灰色がロ号物件の方がイ号物件より濃い。

(二)  右原告製品の形態と被告製品の形態とを対比すると、

(1) 角部にアールをつけたほぼ同じ大きさ、縦横の比率で同じ幅の縁を有する矩形状のトレイ内に、網を載置してあり、トレイの底面には縁に沿った溝が形成されており、

(2) 網は、トレイの内側壁に沿う形状の外枠と、長手方向に付設された九本の縦柵と、横方向に付設された二本の横柵と、左右の最外側の縦柵を口の開いたU字状に曲折して設けられた四つの脚部とからなり、

(3) トレイは灰色とされ、トレイと網はいずれも鉄にフッ素樹脂加工されシルバー調色彩の

(4) オーブントースター用網焼プレート。

という点で一致し、

(5) 原告製品では、トレイの縁の内側が外周よりも一段低くなっているのに対して、被告製品では、トレイの縁が平坦である、

(6) 原告製品では、網を構成する二本の横柵が縦長にほぼ三等分の位置に付設されているのに対して、被告製品では、それぞれの端から、六分の一の位置に付設されている、

(7) 原告製品では、縦柵に設けられた脚部の位置が横柵と端部の中間部であるのに対し、被告製品では、横柵よりやや中央寄りであり、

(8) 原告製品では、トレイ内に載置された網が黒色であるのに対して、被告製品では、灰色である。

という相違がある。

(三)  そして、被告らは、右の(5)及び(6)のとおり、原告製品と被告製品とは相違しており、被告製品が原告製品と実質的に同一とはいえないと指摘するほか、被告製品は、被告らが従前から製造販売してきた被告H―八二〇〇製品を参考に独自に開発し、製造販売を始めたものであり、そもそも原告製品の形態の特徴であるところの、トレイの角部にアールをつけた矩形の形状は、オーブントースターの付属品として原告製品の発売以前から広く販売されていたものと同一であるし、トレイ内に網を載置することは、食品がトレイに付着しないようにする方法として一般的であり、天ぷら用あるいはオーブン用としては既にあった、また、トレイ及び網がシルバー調の色調であるのはフッ素樹脂加工を施したことによるもので、フッ素樹脂加工特有の色調にすぎないところ、フッ素樹脂加工を施すことは、グリル機能を目的とした商品に広く用いられている技術であって、オーブントースターの付属品であったトレイにも施されていたから、原告製品の形態は、同種商品が通常有する形態にすぎない、として、結局、被告製品の形態は原告製品の形態を模倣したものではないと主張する。

2(一)  そこで、検討するに、甲第二七号証、検甲第二、第五ないし第七号証、乙第一号証の2、第一〇号証第一九号証の1〜4の各1・2、検乙第一ないし第四号証の各1〜4、第五、第六号証原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 日立クックオーブントースターTO―ST9(検乙第一号証の3)、東芝オーブントースターHTR―50L(検乙第二号証の3)、三菱オーブントースターBO―G68(検乙第三号証の3)、シャープオーブントースター(検乙第四号証の3)には、それぞれ食品を載せオーブントースター内にいれて使用するトレイが付属しているところ、これら付属品のトレイはいずれも角部にアールをつけた矩形の形状である。右の中では、日立クックオーブントースターのみがトレイ表側にフッ素樹脂加工を施して黒っぽい色調になっている。

(2) 原告製品が販売されるまでは、オーブントースターと独立した商品として家庭用の横型タイプのオーブントースター一般に使用されることを目的としたプレートは市場に出ていなかったが、原告商品が販売された後は、被告製品以外にも、高木金属工業株式会社が「オーブントースタートレー」の名称で、竹原製缶株式会社が「オーブントースター用焼皿」の名称で、株式会社山七製作所が「オーブントースター専用皿」の名称で、それぞれ食品を焼くために食品を載せオーブントースター内に入れて使用するものとして製品を製造販売している。右の高木金属工業株式会社製の「オーブントースター・トレー」は、フッ素樹脂加工を施し、シルバー調の色調で、角部にアールがついた矩形の形状のトレイの底面に、横方向に底面からやや盛上った一四本の波状の凸部が形成されており、竹原製缶株式会社製の「オーブントースター用焼皿」は、フッ素樹脂加工を施し、シルバー調の色調で、角部にアールがついた矩形の形状のトレイの底面に、縦方向に底面からやや盛上った八本の波状の凸部が形成されており、株式会社山七製作所製の「オーブントースター専用皿」は、フッ素樹脂加工を施し、シルバー調の色調で、角部にアールがついた矩形の形状のトレイの底面に、底面からやや盛上った円形の凸部四八個が規則正しく形成されている。

また、株式会社山七製作所は、「オーブントースター専用網」の名称で、オーブントースター用のトレイにのせて使用する網を製造販売しているところ、これは、角部にアールがついた矩形の形状の外枠、縦柵一〇本、横柵一九本と、折曲して脚部を形成した縦長の棒二本からなる。

(3) 被告らが原告製品の販売開始前から製造販売してきた被告H―八二〇〇製品は、「浅型天ぷらバット<小>フタ兼用タイプ」の名称で、鉄にフッ素樹脂加工をした、角部にアールがついた矩形の形状である。一方、被告らは「天ぷらバット用アミ<小>」の名称で、角にアールをつけた矩形状の外枠、一五本の縦柵、二本の横柵があり、縦柵の二本(左右の最外側から二番目のもの)は折曲して脚部が設けられ、横柵は縦方向の端からそれぞれ約四分の一に設けられている形態のステンレス製網を製造販売している。この「天ぷらバット用アミ<小>」は、「浅型天ぷらバット<小>フタ兼用タイプ」と組み合わせて使用することが可能である。また、「浅型天ぷらバット<小>フタ兼用タイプ」に付されているラベルには「天ぷらバットとしてご使用の他、オーブン用の焼き皿にも適していますので幅広くお使いいただけます。」と記載されている。被告H―八二〇〇製品は、原告製品や被告製品よりサイズが大きく、市販の横長形状のオーブントースターにはその一部について使用可能であるが、多くのオーブントースターに対して使用不可能である。

(二)  右認定事実によれば、前記原告製品の形態のうち、トレイが角部にアールがついた矩形形状であることは、横長形状のオーブントースターの付属品であるトレイの形状として従前からあった形状であり、原告製品が横長形状のオーブントースター一般に使用されることを目的としたプレートである以上、右形状は同種商品が通常有する形態であるということができる。また、原告製品は、オーブントースター用網焼プレートであるから、トレイに網を載置すること自体は、従来見られなかった構成であるとしても、同種の商品(ないし同一の機能及び効用を有する商品)が通常有する形態であるといわざるを得ない。さらに、フッ素樹脂加工とは、「フッ素を含むオレフィン炭化水素の重合で得られる合成樹脂の総称」(広辞苑第四版)で、耐熱性に優れており、焼いた物がくっつきにくく、汚れを取りやすいなどの特色があり、調理器具等にも広く使用されており、フッ素樹脂加工を施した調理器具等は濃淡に違いはあるものの、シルバー調の色調をしているものが多いこと(原告代表者(第一回)、弁論の全趣旨)からすると、フッ素樹脂加工自体は、フッ素樹脂が耐熱性に優れていることから施される機能に関するもので、製品の形態とは直接には関係のないことというべきである。そうすると、原告製品の形態は、角部にアールがついた矩形形状のトレイ内に網が載置してあり、トレイも網も鉄にフッ素樹脂加工を施してシルバー状の色調になっているという基本的形態を前提として、トレイは、二段になった縁を設けるとともに、底面に縁に沿った溝を形成し、網は、トレイの内側壁に沿う形状の外枠と、長手方向に付設された九本の縦柵と、横方向に縦柵のほぼ三等分の位置に付設された二本の横柵と、左右の最外側の縦柵を口の開いたU字状に曲折して設けられた四つの脚部とからなること、にその形態上の特徴があるというべきである。そして、右の観点から原告製品と被告製品とを対比すると、基本的な形態が同一であるばかりでなく、右の形態上の特徴部分において酷似しており、両者は、実質的にほぼ同一の形態であるということができる。原告製品と被告製品には、前記1(二)の(5)ないし(8)のような相違点が存在するが、いずれも共通点と対比すると微細な差にすぎず、右の相違点が被告製品において特に費用をかけて商品の機能上あるいは外観上意義のある改変が行われたものとも解し難いから、両製品の実質的同一性を失わせるには至らない程度のものと認めるのが相当である。そして、甲第二四、二六、三七号証、原告代表者本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は、従来なかった汎用的なオーブントースター用網焼プレートとして原告製品を開発し、販売を開始するや消費者に受け入れられ、ヒット商品になったことが認められ、証人山本知幸の証言によっても、被告パール金属が原告製品に遅れて被告製品を開発するに際して、開発担当者において市場で原告製品を見ていることがうかがわれる。原告製品と同種の「オーブントースター用網焼プレート」については、前記(一)の(2)の認定事実に照らしても、同種の商品が通常有することになる基本的な形態を前提としつつも、トレイや網の形状、模様等において様々な具体的形態の選択肢があり得ると考えられるのに、被告らはあえて先行品である原告製品の形態と実質的に同一な形態を被告製品の形態として採用したものであるから、被告製品は原告製品の模倣であるというべきである。

被告らが原告製品の販売開始前から製造販売してきた被告H―八二〇〇製品についてみると、前記認定によれば、同製品は、衣付けなど天ぷらの下ごしらえをする際に使用したり、天ぷらバット用アミと組み合せて天ぷらを揚げた後、油切りをするために使用したりすることなどを本来の用途としているものであり、それ自体、原告製品のように、加熱調理そのものに使用することを前提としているものではない。確かに、同製品のラベルには「天ぷらバットとしてご使用の他、オーブン用の焼き皿にも適していますので幅広くお使いいただけます。」と記載されているが、これは当該商品の本来予定している以外の用途があることを示したものにすぎず、市販のオーブントースター一般に使用されることを予定したものとはいえないし、「天ぷらバット用アミ<小>」も組み合せてオーブントースター用に使うことまで予定されていたとは考えられない。したがって、被告H―八二〇〇製品は、原告製品や被告製品とは別個の種類の商品であるというべきであり、同製品についての被告らの主張は採用できない。

3  右のとおりであるから、被告製品は、原告製品の模倣であり、被告製品を販売することは不正競争防止法二条一項三号にいう「不正競争」に当たり、被告らは、右不正競争行為をするについて少なくとも過失があるというべきであるから、原告に対して、後記二の損害賠償義務を負う。

二  争点2(被告らが、原告に対して、損害賠償責任を負う場合に支払うべき金銭の額)について

1  不正競争防止法五条一項にいう「利益」の意味について、原告は、第一に売上額から売上原価を控除した粗利益である、仮にそうでないとしても、売上額から売上原価(原材料費)の他、運送費等の変動費用のみを控除すべきであるところ、本件においては、被告らが主張する費用の具体的金額には疑義があることから、控除すべき変動費用の具体的金額は原告が要した変動費用の具体的金額によるべきである、さらに、右の「利益」が、売上額から売上原価及び販売費・一般管理費を控除した純利益であるとしても、やはり、本件においては、被告らが主張する費用の具体的金額には疑義があるので、控除すべき費用の具体的金額は原告が要した費用の具体的金額によるべきである旨主張する。

まず、不正競争防止法五条一項にいう「利益」の意味であるが、そもそも同条項は、本来、被害者は不正競争行為による逸失利益を損害として賠償を求めることができるものの、不正競争行為との因果関係を立証することが困難であることから、立証負担の軽減のために、不正競争行為者が不正競争行為によって得た利益の額をもって逸失利益による損害の額と推定する規定であるところ、被害者(本件の場合は先行して市場開発を行った者)も営業活動を継続している以上、通常は売上原価の他にも当然に負担する経費があり、それに相応する額は本来得られるはずのないものであるから、逸失利益を算定するに当たって売上額から売上原価の他にかかる経費分を控除するのが相当である。よって、不正競争防止法五条一項にいう「利益」を算定するに当たっても、特段の主張・立証のない限り、売上額から、売上原価の他営業活動に伴う経費を控除するのが相当である。

そして、被告パール金属は、本件において売上額から控除すべき経費の費目を、運送費、不良率、リベート協力費、カタログ作成費、営業運営費、倉庫料、返品率、金型費、製版代、単価訂正、工賃であると主張するのに対し、原告は、これらのうち、運送費、リベート協力費、返品、単価訂正のみであると主張し、また、被告パール工業は、製造原価の他人件費及び経費であると主張するのに対して、原告は製造原価のみであると主張する。しかし、不良率、カタログ作成費、営業運営費、倉庫料、金型費、製版代、工賃は、必ずしも、製品の販売量に比例して増減するものではないが、本件においては、製品の販売にあたり全く無関係な費用ではないことは弁論の全趣旨より明らかであるから、売上額から売上原価の他に控除すべき経費を原告が主張する運送費、リベート協力費、返品、単価訂正に限定し、不良率、カタログ作成費、営業運営費、倉庫料、金型費、製版代、工賃を控除しないとするのは相当でない。

2(一)  そこで、本件において、被告パール金属の得た利益を算定するための売上額、そこから控除すべき売上原価及び経費の具体的金額について検討するに、甲第三七ないし三九、四一号証、乙第二四ないし二六、二八ないし三一、三二の1〜6、三三の1〜3、三四の1・2、三五ないし三七、三八及び三九の各1〜3、四四及び四五の各1・2、四六号証、証人高波文雄の証言、原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 平成六年八月一日から平成八年八月三一日までの間、被告パール金属は被告パール工業から、被告製品のうちH―八四〇〇を一個二八四円で仕入れ、一個当たり平均三九〇円で七万九三〇九個販売し、また、品番号H―五九二は、H―八四〇〇をダイエー向け商品として包装を変更したものであって、そのための経費(内装、外装、版代、包装工賃)として一個当たり二〇円を要していることから、品番号H―五九二を一個当たり三〇四円で仕入れ、一個当たり平均四〇〇円で二万三〇九一個を販売した。

(2) 被告パール金属の作成した原価分析表(乙二四)では、被告パール金属は、品番号H―八四〇〇の販売につき、運送費、人件費、リベート協力費、カタログ作成費、営業運営費、倉庫料、返品、金型費、製版代、単価訂正(値引)として、一個当たり87.58円を要し、品番号H―五九二の販売につき、同様に一個当たり109.72円を要し、この結果、被告パール金属は、H―八四〇〇について一個当たり18.42円の純利益を得ており、H―五九二について一個当たり13.72円の純損失を負担しているという計算になっている。

(3) 被告パール工業の作成した製造原価分析総括表(乙三一)では、同被告におけるH―八四〇〇及びH―五九二の一個当たりの製造原価はいずれも277.16円で、そのほかに人件費が7.24円、経費が1.22円という計算になっている。

(4) 平成六年八月、被告製品の販売開始後、原告代表者は、被告パール金属の大阪営業所玉岡所長に対して、被告製品は不正競争防止法に違反している旨警告するとともに、原告が製造した製品を被告パール金属が販売する(いわゆるOEM生産)ことを提案し、同年一〇月二六日付の商品構成見積書を被告パール金属が原告に送付してきたところ、右商品構成見積書には、本体、ヘッダー、ラベル、袋、小箱10入印刷付、外カートン40入をあわせて一九〇円と記載されていた。

(5) 右のとおり、被告パール金属が商品構成見積書を原告に送付してきた当時の原告製品の原価は196.22円であった。

(6) 原告製品は、売価が一個当たり三九〇円の場合、一個当たりの原価及び経費は、材料費、第一ないし第四プレス、金型償却費、部品(テフロン加工した網)、副資材(ラベル、ビニール袋、20個入小箱、カートンケース)、運賃、販売管理費の合計271.87円で、リベート協力費を差し引いた実売価378.20銭から右原価及び経費を控除した利益は106.43円である。

(二)  被告パール金属と被告パール工業の本店所在地は同一で役員も共通であり、被告パール工業は被告パール金属の子会杜であること(証人山本和幸)、しかも、右(一)のとおり、被告パール工業が製造した被告製品は全品被告パール金属に納入され、被告パール金属はその一部の包装を変更してダイエー以外向けの品番号H―八四〇〇とダイエー向けの品番号H―五九二に分けていることからすると、被告パール金属と被告パール工業とは、本件における損害額の算定に当たって一体の企業として把握するのが相当である。したがって、被告パール金属が得た利益を算定するに当たっては、被告パール工業が被告パール金属に被告製品を納入したことによる利益も併せて算定すべきである。

前記のとおり、被告パール金属は、被告製品のうちH―八四〇〇を一個二八四円で仕入れ、一個当たり平均三九〇円で、また、H―八四〇〇をダイエー向け商品として、一個当たり二〇円の経費をかけて包装を変更し、品番号H―五九二として一個当たり三〇四円で仕入れ、一個当たり平均四〇〇円でそれぞれ販売しているものであるが、被告らの原価計算表によれば、被告パール金属は、H―八四〇〇について一個当たり18.42円の純利益を得、H―五九二について一個当たり13.72円の純損失を負担し、また、被告パール工業は被告パール金属に被告製品を納入して、一個当たり6.84円の粗利益を得ているが、被告パール工業独自に人件費(7.24円)及びそのほかの経費(1.22円)を要しており、結局、1.62円の純損失を負担しているから、総体としてみれば、被告らは、品番号H―八四〇〇についてのみ、16.8円の利益を得ているにすぎないということになる。

しかしながら、右の被告ら作成の原価計算表に記載された経費の額は採用することができない。すなわち、前記のとおり、原告は原告製品につき一個当たり106.43円の利益を得ており被告らが得ている利益との差は著しく大きいところ、甲第四五号証及び原告代表者本人尋問の結果(第二回)に照らして、被告らの原価計算表について原告が指摘する前記第三の二【原告の主張】2(二)、3のような、疑問があることも否定できない。

被告らの原価計算表によれば、被告らの利益が非常に低いものとなっていることにつき、高波証人は、被告商品以外の商品も含めた全体で商売は成り立つ、被告製品については損失を出していても、他の商品の注文をとることができれば、全体として商売は成り立つ旨証言する。しかしながら、一般に、商品の価格は、原価及び経費を考慮した上、より多くの利益を生むように検討して設定されるのが通常であって、仮に損失あるいは利益が少ない商品を他の商品の取引との関係で、製造、販売を続けることが皆無とはいえないまでも、相応の理由があると考えられるところ、本件全証拠によるも、被告製品は被告らが取り扱う他の商品と抱き合わせで取引がなされていたとか、被告製品を製造、販売することで、被告らの他の商品の取引が増加している等、損失あるいは少ない利益を甘受して被告製品を製造、販売しなければならない特段の事情を認めることはできない。むしろ、原告と被告パール金属及び被告パール工業は、競業関係にあり、被告パール金属は原告よりはるかに企業規模も大きい(甲四五)上、前記一で認定したとおり、被告製品は原告製品の模倣であることからすると、原材料の仕入先の違い等により、若干の相違があるにしても、原告製品と被告製品の製造原価及び経費に大きな差が生ずるとは通常考えられず、このことは、前記のとおり、被告パール金属が原告の提案するOEM生産についての回答として、一九〇円の原価を提示した当時、原告の製造原価が196.22円であったことからしても、容易に推認することができる。

以上によれば、被告製品の売価が三九〇円又は四〇〇円に相応する原価及び経費の合計は、原告製品のそれである271.87円を上回らないものと認めるのが相当である。したがって、本件においては、H―八四〇〇については平均売価である三九〇円から原告製品の原価及び経費の合計額に相当する271.87円を控除した118.13円をもって一個当たり被告らが得た利益と認めるべきであり、また、H―五九二については平均売価である四〇〇円から原告製品の原価及び経費に相当する271.87円及びH―五九二がダイエー向け商品であることから包装を変えたことによる経費二〇円を控除した108.13円をもって一個当たりの利益と認めるべきである。

そこで、前記のとおり、被告パール工業が製造した被告製品全品の納入を被告パール金属は受けて、販売しているのであり、その個数は、H―八四〇〇で七万九三〇九個、H―五九二で二万三〇九一個であるから、結局、九三六万八七七二円(118.13円×7万9309個)と二四九万六八二九円(108.13円×2万3091個)の合計一一八六万五六〇一円(円未満切捨)が不正競争防止法五条一項に基づき被告らが得た利益として、原告が被った損害と推定される。

3  本件事案の性質、内容、訴訟の経過、請求額及び認容額などを換算すると、一二〇万円をもって被告らが賠償すべき弁護士費用とするのが相当である。

4  よって、被告らは、連帯して一三〇六万五六〇一円の賠償責任を負うところ、本訴における原告の請求額は一二〇〇万円であるから、原告の右請求は理由がある。

遅延損害金については、平成七年二月一日(請求の趣旨における遅延損害金の起算点)までの販売個数及び得た利益が、前掲証拠によれば、H―八四〇〇につき二万四九三二個で二九四万五二一七円、H―五九二につき一万一二五〇個で一二一万六四六二円であり、その合計四一六万一六七九円(円未満切捨)であるから、右四一六万一六七九円につき平成七年二月一日から、残七八三万八三二一円につき平成八年九月一日(損害賠償を請求する期間の最終日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年五分の割合により支払義務があるものというべきである。

第五  結論

よって、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官小松一雄 裁判官高松宏之 裁判官小出啓子)

別紙目録(一)・(二)<省略>

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